Share

第九話 母の声

last update publish date: 2025-07-01 08:46:33

第九話    母の声

五月、桜の花が全て葉に変わった頃、一人の妓女が吉原から出ていく。

長年、三原屋のトップに君臨していた玉芳が身請けされるのだ。

「本当に、この時が来るなんてね……」 采が涙ぐみ、話す。

「今まで、本当にありがとう……母様《ははさま》」 そう言って、玉芳が采に抱き着いた。

三原屋は、とてもファミリー感覚な妓楼である。

「父様《ととさま》も、本当にお世話になりました」 ここでも玉芳が文衛門に抱き着いた。

一階の大部屋では、祝賀ムードになっていた。

妓楼の見世先には大量の花が届き、幕《まく》まで出していた。

「おや、梅乃は?」 玉芳がキョロキョロして梅乃を探していた。

「こんな所に居たのかい……」 玉芳は、台所に座っていた梅乃を見つけた。

「すみません……なんか、急に寂しくなって……」 梅乃は、涙をポロポロと流しながら話していた。

「また、会いに来るから」 玉芳はニコッとして、梅乃の頭を撫でた。

「もうじき、大江様が到着されます」 男性従業員の言葉が聞こえ、一斉に支度に取り掛かるのであった。

「梅乃、小夜、しっかり勉強をするのですよ」 玉芳は、母親のような口調だった。

そこには、梅乃も、小夜も同じ気持ちでいた。

妓女としてだけではなく、母親のような存在であった玉芳の引退に、幼い二人には厳しい現実であったのだ。

そして、大江より先に花魁同士で しのぎを削《けず》ってきた仲間が祝福に訪れてきた。

「玉芳花魁……おめでとう」 長岡屋の喜久乃と、鳳仙楼の鳳仙である。

「なんだ~ 来てくれたの?」 玉芳は、この上ない笑顔だ。

「当たり前じゃないか! 大見世の花魁同士だよ」 

玉芳を始め、喜久乃や鳳仙と言った大見世の花魁が集結した三原屋は賑やかである。

ただ、一般の妓女からすれば天上人である。 生きた菩薩の三人の空気に圧倒されるばかりであった。

「紹介するわね。 喜久乃花魁と鳳仙花魁よ!」 玉芳は、二人を三原屋に紹介していた。

「あれ? あの娘《こ》は?」 喜久乃がキョロキョロしながら言い出した。

「あの娘?」 玉芳が首を傾げる。

「ほら、禿の元気な娘よ。 梅乃だよ」 鳳仙が説明した。

「あぁ、台所で泣いてるわよ」 玉芳は、苦笑いで答えた。

「仕方ないか……本当に母親みたいだもんね」 鳳仙は勉強会などで、玉芳が率先していたことを知っているだけに梅乃の気持ちも解っていた。

「こんにちは……鳳仙花魁、喜久乃花魁」 梅乃は泣き止み、大部屋に出てきた。

「お~梅乃、泣きべそだね~」 鳳仙は満面の笑みで、梅乃の頬を撫でた。

「これからも、ちゃんと玉芳の言われた事を守るんだよ」 喜久乃も梅乃の心配をしていたようである。

「ありがとうございます」 梅乃は、しっかり頭を下げた。

「大江様、大門の前に到着されました」 男性従業員が大声で叫ぶ。

「さて、時間がきたね……」 玉芳は、ゆっくりと腰をあげた。

「玉芳……」 采は、ぐっと涙を堪えていた。

「お母さん……」

「玉芳……」 文衛門にも涙がこぼれた。

「お父さん……」

「菖蒲、勝来、梅乃、小夜……しっかり、三原屋の菩薩になるんだよ」

禿の時代、そして妓女になっても四人の間柄は変わらなった。

「姐さん……」 三原屋の全員が玉芳の門出に涙していた。

「さぁ、行くよ! 最後の花魁道中だ」

三原屋を出た玉芳に、盛大な拍手が送られた。

そして江戸町一丁目から大門は近くである為、一番奥の水道尻まで歩いて折り返すルートにしていた。

「旦那、少しお待ちを……」 大門の守衛は、大江の茶を出していた。

ゆっくりと仲の町を歩く姿は神々しかった。

「派手だなぁ……」

仲の町を歩く人々は、みんな見ていく。

先頭に玉芳、二列目に祝福をする鳳仙と喜久乃までもが外八文字で歩いていた。

この噂は吉原中に広がり、他所の見世の客や妓女までもが見物に来ていた。

「ごめんね……一緒に歩いて貰って……」 玉芳は、申し訳なさそうに鳳仙と喜久乃に謝っていた。

「いいのよ……これもウチの宣伝になるしね♪」 喜久乃は、まんざらでもなさそうであった。

そして引手茶屋の前、足を止めて左右の茶屋に礼をする。

今までの感謝を伝えていたのだ。

「私も使おう……」 今まで、引手茶屋に礼と言えば金銭の事になるが、この一礼だけでも印象は変わる。 鳳仙は、玉芳が花魁として愛された理由《わけ》を知った。

そして大門に到着する。

この大門に集まった者は、数百人いた。

「お待たせしました……」 玉芳は、ニコッと微笑んだ。

「あぁ、素敵だったよ」 大江も微笑んだ。

玉芳は、くるっと回り

「今まで、ありがとうござんした……玉芳は、これから大江様と歩んでいきんす……」 玉芳は、涙でいっぱいになっていた。

そして、ゆっくりと高下駄から足を下ろすと

「玉芳――っ」 観客から別れを惜しむ声が響いた。

玉芳は、振り返らずに前へ足をだして大門の外に出た瞬間

「お母さん―」 大声で叫ぶ声がした。 梅乃である。

玉芳は、足を止める。 それでも振り返らずに大門の外に待たせてある車に乗った。

見送った全員は、見えなくなるまで玉芳を見送っている。

「うぅぅ……」 必死に涙を拭《ぬぐう》う梅乃と小夜に、菖蒲が肩に手を置いて、

「私も姐さんみたく、泣いてくれるかい?」 

「はい……でも、行かないで……」 梅乃の返事は、菖蒲の涙を誘うものであった。

「よし、私も頑張って働くかね……」 喜久乃が声を出すと

「そうね。 ライバルが減ったからね♪」 鳳仙も寂しさを吹き飛ばすかのように声を出した。

三原屋の一時代は終焉《しゅうえん》を迎えた。

そして、翌日には次の戦略会議が行われていた。

「次の花魁ねぇ……玉芳が長いこと君臨《くんりん》していたから、考えてなかった」

采は頭を抱えていた。

「う~ん」 文衛門も悩んでいた。

ここで二人の候補が浮上していた。

一人目は、信濃《しなの》 二十五歳である。 信濃は学もあり、琴の才能もあった。

売上も程々良くて、三原屋で十年働いている。

二人目は、花緒 二十四歳である。 花緒は近藤屋の閉鎖に伴い、三原屋が引き取った四人のうちに一人である。

気立て、優しさは申し分なく頼れる逸材《いつざい》である。

「ここは、迷うな……」 文衛門は難しい選択に迫られていた。

花魁次第で、見世の売上や評価が変わるからである。

新しい吉原《よしわら》細見《さいけん》の作り直しに、時間が差し迫っていた。

【吉原細見】とは、江戸時代に蔦屋《つたや》重三郎《じゅうざぶろう》が版元として売っていた吉原のガイドブックである。

各妓楼の妓女や、料金などが書いてある本の事である。

「どうする……」 文衛門が悩み、二日が経った。

「おはようございます♪」 梅乃と小夜は、見世前の掃除をしていた。

他の見世であれば男性従業員の仕事であるが、梅乃たちは自ら掃除をしていた。

「梅乃、小夜……ここだけの話しじゃ、守れるか?」 文衛門は、まさかの禿に聞く案を使った。

これは大人の色眼鏡を通した目より、純粋な目を借りて参考にしようとしていた。

「梅乃と、小夜は、誰が花魁なら良いと思う?」 

「う~ん……私は信濃姐さんかなぁ」 小夜が言う。

「どうして?」 文衛門は、前のめりで聞いていた。

「いつも、お客さんが居て人気だから……」 小夜の言葉に、文衛門が頷いた。

「それで、梅乃は?」

「私は勝来姐さん」

「勝来?」 文衛門は驚いていた。

「勝来は、これから新造出しだよ?」 

「うん。 だから将来的に勝来姐さん」

「将来的にかぁ……なんで勝来なんだい? それなら菖蒲じゃないかい?」

「菖蒲姐さんでも良いと思います。 玉芳花魁が育ててくれた姐さんだし……」

「それなのに、勝来かい?」

「それは、お武家様の人で、教養と冷静さがあるから」

梅乃の言葉に、文衛門は驚いていた。

(この娘、そこまで先を見ているのか……)

そして話しが終わり、文衛門は采と話をしに行った。

「ちょっといいかい?」 

「なんだい?」 采は、そろばんを弾きながら返事をする。

「あの子たちにも聞いたんだ」

「あの子って、梅乃と小夜かい?」

「小夜は信濃、梅乃は、何故か勝来と言ったんだ……」

「勝来? 菖蒲じゃなく?」 采はキョトンとしていた。

 「まぁ、ひとつの案として聞いたんだけどね」 文衛門は、それを言い残して去っていった。

 大部屋は女の部屋である。 主《あるじ》の文衛門でも男である為、長居はできないのだ。

「ふ~ん」 采はチラッと勝来と信濃を見ていた。

そして翌日

「勝来、ちょっと来な!」 采が勝来を呼んだ。

「なんでしょう? お婆」 采の前に正座をする。

「お前、もう十四だろ? そろそろ新造出しをするかい?」 采の言葉に、勝来は驚いていた。

「いいんですか? 菖蒲姐さんも新造出しをしたばかりで……」

「お前の気持ちを聞いているんだよ……」 采は、勝来の覚悟を確かめていた。

 「はい……お願い致します」 勝来の返事で、覚悟が決まった。

「お前さん、勝来に賭けてみようじゃないか」 采は奥に居た文衛門を見て、ニヤリとした。

「とりあえず、信濃を置くよ」 そう言って、采はやり手の仕事に戻っていった。

絶対的な支柱を失った三原屋に、これからの手腕が試される時が来たのである。

Continue to read this book for free
Scan code to download App

Latest chapter

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第百二十五話 二人羽織

    第 百二十五話    二人羽織 初陣で客の指名を受けた古峰が宴席に入ると 「待ってたよ、古峰ちゃん……」 客は嬉しそうな顔をしている。 「は 初めてなので緊張しますが、よ よろしくお願いいたします……」 古峰は膝をつけ、しっかりと頭を下げる。 「しっかり者だよね。 さすが禿たちの長女だな」 客が満足そうに酒を口にするが (すみません、三女なんです……) そう言いたかけたが、言葉を飲み込んでいく。 古峰は背も高く、冷静な行動をする。 実に姉らしいのだが (一番、背が低いのがお姉ちゃんなんです……) これも言いたいが我慢する。 「失礼しんす…… お酒と料理を運んでまいりました」 襖がスッと開く。 運んできたのは小夜だった。  「おやおや、君も若くて素敵だね」 客が小夜を誉めると (若ければいいのか……) 古峰は男というものを知ってしまったような顔になる。 客が酒を飲むと小夜が注ぐ。 古峰は静かに琴の演奏を始めた。 宴席が盛り上がっていくと 「そろそろ会計も終わりかな……?」 采は苦労しながら立ち上がる。 その脇から梅乃が支え、部屋に連れて行ってもらうようになっていた。 采は段々と足が弱くなっていたのだ。 梅乃は、采の寝所でマッサージ

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第百二十四話 こぼれ噺

    第 百二十四話    こぼれ噺《ばなし》 「お~い~ら~ん……」 梅乃は第二子の具合を診に玉芳の家まで来ていた。 “ポカンッ――” 勢いよく出てきた玉芳が梅乃の頭を叩く。 「お前な…… 引退してから何年が経っていると思っているんだ! 近所の人だって、知らない人も多いんだ。 それなのにデカい声で……」 玉芳が追撃のゲンコツを落とす。 「すみません……」 シュンとする梅乃。 すると、玄関から大江が出てくる。「これ、お医者様になんてことを……」 「大江様、お久しぶりです」 梅乃がニカッと笑うと、大江も笑顔になり 「しかし、梅乃ちゃんは立派になったね~。 まさか、お医者様になるなんてな~」 「いえ、赤岩先生や岡田先生がいたからです」 「それと、采さんだろ?」 大江も三原屋の常連だったので、中の事情を知っていた。 梅乃は大江の家に入り、赤子の診察を始める。 「熱はないみたいですね。 これなら安心ですが……」 梅乃がチラッと玉芳を見る。 「何よ? どうしたの?」 玉芳が訊くと 「名前、教えてください」 梅乃が微笑むと 「名前? 今更?」 「へっ? 今更? 私は知りませんが……」 梅乃がポカンとすると

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第百二十三話 友情

    第 百二十三話    友情明治十年、大晦日。 年末を吉原で過ごしたいと思う人は少ない。 早めに用事を済ませて自宅に戻っていく客が多い。吉原に通える男性は東京の人口でも僅かである。 多くの客は妻帯者であり、会社を経営しているくらいの身分でなければ吉原通いは続かない。明治になり、小見世でも安いと思える見世は少なくなってきたことで売り上げはピークから半分程度になっていた。人気を誇っている三原屋、鳳仙楼、小松屋は安定しているが、売り上げが少し落ちてきた妓楼があった。長岡屋である。 長岡屋は喜久乃が花魁だった頃がピークであり、数日間だけの花魁を襲名した喜久陽が亡くなってからは人気が下がってしまった。「やはり、梅毒がな……」 長岡屋では、主人がため息をつく時間が増えていた。「梅毒なんて、どこでもなったじゃない。 三原屋だって鳳仙楼だって同じだったわよ」 主人と話すのが遣り手である。 長岡屋の主人は、女房を遣り手に据えている。 これは、どこの見世でも同じであった。「どうにか巻き返せないものか……」 主人が悩んでいる横を静《しず》が通る。 静は近江屋の禿であったが、近江屋の閉鎖に伴い長岡屋で拾ってもらった禿である。 喜久乃の傍で勉強し、時間こそ掛かったが十六歳で新造となっていた。「父様、母様…… ため息は早いです。 私も十六歳になりました。 これから孝行していきますので」 静がニコッと笑うと「お前は、苦しい時もあったのに、よく我慢してくれたな…&he

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第百二十二話 誕生

    第 百二十二話    誕生 明治十年 十二月。 年末になり、吉原の活気が出て来た。 「おはよう……」 一花と二葉が外の掃き掃除をしていると、梅乃が外に出てくる。 「おはようございます」 禿の二人も元気よく挨拶をする。 「どれ、貸して」 梅乃が手を出しホウキを受け取ると 「梅乃姐さん、お医者様にそんなこと……」 二葉が焦っている。 「いいって。 私だって、少し前までは掃除していたんだから」 梅乃がニコニコしていると 「そうよ! 掃除していても、ホウキを置きっぱなしにして何処かに行ってしまったりね」  「小夜姐さん……」 中からクスクスと笑いながら出て来たのは小夜である。 「小夜…… おはよう」 梅乃がニコッとすると、 「なんで梅乃が掃除しているのよ?」 小夜はキョトンとする。 「そりゃ、妓女でもない私が掃除したって変じゃないでしょ? 潤さんだって掃除するし……」 「何を言っているのよ! 梅乃は医者なのよ。 赤岩先生だって、岡田先生だってしなかったじゃない」 小夜が言うと、梅乃は考え込む。 (そういえば先生達は掃除しなかったかも……) 考えても答えが出てこなかったので 「まぁ、私の趣味ってことにしておいて」 梅乃が微笑むと、小夜は 「好きにしたらいいよ。 三原屋《ここ》に居るだけでお婆や

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第百二十一話 親孝行

    第 百二十一話    親孝行 「ただいま戻りました……」 梅乃が照れ臭そうに言うと「い 生きてたんだね……」 古峰が抱きつく。「へっ? 死んだと思っていたの?」 梅乃が妓女達を見ると、「い いや…… そんなこと……」 妓女たちは、梅乃から目を逸らす。「ね 姐さんたち、梅乃ちゃんの葬式を出そうとしていたんだよ」 古峰が告げ口をするかのように言うと(なんて姐さん達だ……) 梅乃は愕然としていた。「お婆…… ご心配かけました。 ただいま帰りました」 梅乃が膝をつけて頭を下げると「梅乃…… 帰ってきたんだね……」 采は、か細い声で言い、梅乃に手招きをする。(もう歳だし、そんなに弱っていたのか……) 梅乃が菩薩のような目をして采に近寄ると“ポカン――” もの凄い音を立てた采のゲンコツが梅乃の頭に落ちてくる。「ぐっ――」 梅乃が両手で頭を押さえ、目を丸くすると「これで吉原に帰ってきたと実感しただろ?」 采がニヤッとする。「お婆――」 梅乃は両手を広げて采に飛びついていった。この日は妓女たちの風呂の日。 妓女が風呂に入れるのは週に二回

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第百二十話 一年の重み

    第 百二十話    一年の重み明治十年 十二月。 西南戦争終結から半年が経った。「知らせでは戦争が終わったようだけど、梅乃はどうしているんだろう……?」 采は遠くの空を見つめながらキセルを吹かせている。「お婆、ここ最近は元気がないね……」 勝来が采のことを気に掛けていると「最近じゃないですよ! 一年間、あんな感じじゃないですか」 小夜は呆れている。 (お婆…… 私が居なくなっても同じような顔をしてくれる?)小夜の心は梅乃への嫉妬というより、自分自身の存在が消えてしまうのではないかと不安になっていた。三原屋では花魁の勝来の名前より、梅乃の名前の方が知れ渡っている。 医者であり、子供の頃に殺されかけた話も有名である。「古峰…… ちょっといい?」 小夜が呼ぶ「……」 古峰は途方に暮れながら掃除をしていた。古峰も十五歳になり、新造になったのだが……「古峰――ッ」 小夜が怒鳴ると「は はい――」 古峰は慌てて返事をする。「アンタ、いつまで掃除しているのよ? もう新造なのよ! 禿に任せて妓女の勉強をしなさいよ!」「ご ごめん、小夜ちゃん…… 何故か新造と言われてもピンと来ないんだ…… い いつも三人で同じ行動をしてきたから、どうしても心が付いて

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第四十六話 袖を隠す者

    第四十六話    袖を隠す者 昼見世の時間、禿たちは采に指示を受けていた。 「いいかい、妓女として芸のひとつは身につけておかないとダメだ! 舞踏、三味線、琴でもいい…… わかったね!」「はいっ!」 三人は元気に返事する。 この冬を越えれば梅乃と小夜は十三歳となる。 菖蒲や勝来は十四歳の終わりに水揚げをし、十五歳になったら客を取

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第三十八話 逆襲

    第三十八話    逆襲「こんにちは~」 梅乃が挨拶をする。この日は赤岩と往診に出ている。「あ~ 梅乃ちゃん、いらっしゃい。 先生もありがとうございます」そう言って、妓楼の中に入れてくれたのは小松崎である。以前、大量の足抜により頭を抱えていた『小松屋』の店主である。梅乃の活躍によって足抜は無くなり、見世を維持できていた。そんな小松屋が三原屋に往診を依頼してきていたのである。赤岩と梅乃が大部屋に入ると 「一列に並んでくださーい」 梅乃は早速、妓女並ばせる。(すっかり手慣れたもんだな……) 赤岩がクスッと笑う。「では、始めます」 赤岩が言うと、梅乃が妓女の服の下を確認していく

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第二十二話 昼行燈

    第二十二話    昼《ひる》行燈《あんどん》「潤さん、おはようございます」 梅乃は早起きをして、見世の前をホウキで掃いていた。「おはよう、梅乃~」 片山も朝早くから掃除をしていた。初夏になると朝陽が昇るのが早い。早い時刻に外が明るくなる為、自然と『後朝の別れ』も早くなっていく。“ゴーン ゴーン ” と、掃除をしている途中に、浅草寺の鐘が鳴る事も稀《まれ》である。そこに赤岩が現れた。「おはようございます」 そう言って、赤岩は身体を伸ばしていた。「赤岩さん、いつも早いですな~」 片山が声を掛けると「夜、寝るのも早いですから~」 赤岩はニコッと答えた。(あれ? 赤岩さんの部屋、

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第二十話 新しい禿

    第二十話    新しい禿「……」「へっ?」 梅乃と小夜は驚いていた。「何、ボーっとしているんだい! 部屋割りと仕事を教えてやるんだよ」采は梅乃たちに言っていた。「は、はい―」 三原屋は、新しい禿を迎えいれることになったのである。(先日の客は、この事だったのか……) 梅乃は思い出していた。時を戻して三十分前、「梅乃、小夜、新しい禿になる古峰《こみね》だ。 しっかり教えてやりな」 采の言葉だった。そして古峰は 「……」 無言だった。(この娘は……声が出せないのかな? たまに吉原では変わった人はいるけど……) 「こんにちは。 私は梅乃、よろしくね♪」 梅乃は、『最初が肝心《か

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status